食と農をつなぐパルシステムの産直

株式会社ジーピーエス 事業本部長 高橋宏通

 独自の産直政策で環境保全型農業を推進

 パルシステム生活協同組合連合会(以下パルシステムという)は、9都県にまたがる10の地域生協を会員とする事業連合で、「組合員の暮らし課題解決」や「組合員の暮らしの生涯をサポート」という事業コンセプトに基づいて、2006年度末の会員組合員世帯総数は約90万世帯、農産の事業高は青果191億円、米88億円の供給高を上げている。
 
 パルシステムは、店舗事業展開をせず個人対応型無店舗事業に特化している。全国の生協に先駆けて「ライフステージ別暮らしの提案」(ライフスタイルごとに3つのカタログ提案)を行い、事業の柱に「産直と環境」を据えて、組合員と産地・生産者との連携で「環境保全型農業」を積極的に推進している。このなかで産直農産物の卸業を担っているのが、パルシステム連合会グループ株式会社ジーピーエス(以下「ジーピーエス」という)である。

 パルシステムでは、国の「食料・農業・農村基本法」の制定を契機に「パルシステムの食料と農業政策」を策定。環境保全型農業の推進や食の安全確保、食料の安定確保(食糧自給率の向上)、総合的なフードシステムの確立を目指している。さらに独自の「産直政策」において産直の目的や定義を定め、進め方や課題を明確にしている。

パルシステムにおける産直の目的は、『健康で安心な暮らしに貢献し、生産者と消費者がともに生活者として農業の持つ多様な価値を見直し、環境保全・資源循環型の食と農をつなげた豊かな地域社会をつくること』である。産直を単なる食糧の調達手段とは考えずに、生産者と消費者(=組合員)のコラボレーションによる地域社会づくりを目指していることが特徴といえる。

 国内農業を守るパルシステム

現在の農業政策には、「食糧自給率の向上」という課題を背景に@自給率の目標設定、A農業の担い手育成、B食の安全性の確保、C食育や地産地消の推進、D環境保全型農業などが盛り込まれている。

しかし、自給率の向上はいっこうに進まない。WTO、EPA交渉など関税障壁の撤廃にむけた情勢は変らない。むしろ農業は、他の国内産業(自動車、鉄鋼等)の生贄にされていると言っても過言ではないだろう。

国内の生協のなかでも、日生協の低価格路線をはじめ消費者側からの「関税廃止論」が起こっているところもある。しかし、安いものだけ供給していればよいのだろうか。安さと量の安定を追いつづければ、行き着く先は外国農産物が売り場を占めることになってしまう。また「安かろう悪かろう」でその代償に安全、安心をはじめ失うものが大きいことを最近の食品偽装事件や中国産の残留農薬問題などが物語っている。

 国内農業への保護政策は現状として必要と考える。食育、地産地消の取組については積極的に進めていくべきである。また、自立できる農業経営を構築することこそが必要であり、しっかりとした販路を確保する規模拡大が必要になってきている。

 国内農業生産者を育成する

パルシステムでは生協の発足当初より国産にこだわり、バナナなど国内生産ができない品目以外は、輸入農産物を扱っていない。これは、産直を単なる商品調達の手段とは考えず、農業の多面的な機能(環境、交流、文化、教育)を重視し、国内農業の育成に取り組んできたからである。食のグローバル化が進む現在、増加する輸入農産物に、どのように対抗していくのかが大きな課題となっている。

 国内担い手生産者の育成については、価格政策を抜きにしては語れない。農業を再生産できる価格が保証されればある程度後継者も育ってくると考える。このため、国内農産物の価値を消費者(=組合員)に理解してもらうことで、「消費者が生産者を支え、生産者が消費者を支える」という相互関係を築こうとしている。

 消費者と継続的にしっかりと結びつくことで、生産者が一生懸命生産したものを安定的に消費する仕組みづくりをパルシステムは公開確認会の取組などで率先して実施してきた。その成果もあり、パルシステムの野菜や果樹の産地では20代30代の若い後継者が続々と育ってきている。
 

 規制が強化される法制度への対応

2003年に改正された農薬取締法は、使用者への罰則が適用されるなど国内農業生産現場への規制強化となった。さらに食品安全基本法制定を受け、食品衛生法が改正され、農薬のポジティブリスト制、食品安全委員会による監視体制、トレーサビリティの法制化など、わが国における食料・農業に対する規制はますます強化されている。行政の監視体制が強化され、摘発対象が増加する傾向は否めない状況下で、生産〜流通・加工〜販売プロセスの改善と管理レベルの高度化が求められている。

 とくに農薬のポジティブリスト制では、国内で使用が許可されているすべての農薬について基準が設定されており、違反が発見されれば流通そのものが禁止される。しかし、輸入農産物には国内の農薬取締法の規制は適用されておらず、使用農薬についても規制はない。食のグローバル化の中で食品に対する検査体制は強化されるものの、国内と外国農産物の管理状況のアンバランスが増大していると言わざるを得ない。ただし、検査をすればするほど今まで見えていなかったものが明らかになってくるという側面もある。それは、昨今の輸入農産物における違反農薬の摘発報道を見ても分かるとおりである。

 パルシステムでは、コンプライアンスは生協の産直事業の必須条件と考え、めまぐるしく変わる法規制にも対応できる産直システムの構築を目指している。たとえば農薬のポジティブリスト制は、独自の品質検査センターにおいて法施行の3年前から検査体制を強化。現在は検査対象薬品数も200種類にまで広げるなど、国内でも最高水準といえる農薬検査を行っている。

 また、流通システムの高度化に対応した産地の管理システムを構築すべく産地向けの学習会、研修会を年間20件以上にもわたって実施。現場の状況をふまえ、生産者一人一人が充分理解できる対応を産地と一緒に進めている。また農薬検査も産地の摘発を目的としたものではなく、産地の農薬削減プログラムの成果を検証し不十分な点があれば是正しレベルアップしてもらうために行っている。

 時代の要請に応えられる新たな流通

 米の取引においても、パルシステムは独自路線を進んできた。産地と栽培契約や取引を直接することが難しかった時代から、パルシステムは産直を掲げ、組合員と生産者の人的交流から産地との結びつきを深めてきた。組合員と生産者が強く結びつくほど生産者は自分が作った米を自由に売りたいとの思いを強めていく。これは同時に組合員の願いでもあった。

しかし、これまでの自主流通米制度の枠組ではさまざまな困難を要した。米の流通は、産地・全農県本部・卸の3者での合意が必要であったため、産地と契約しても必ずしも指定のお米が届くわけではなかった。また、米の取引価格についても、青果などの産直とは異なり、生産者・消費者の2者の関係で決定できない仕組みとなっていた。

「米産直事業」にこだわってきたパルシステムでは、2004年度の米流通改革にむけて、新たな米の流通政策を策定した。@それまで産地と進めてきた関係性を堅持し、さらに自主流通米制度の下で行われてきた商流について抜本的な見直しを行い、産地JAないし生産法人との直接契約(栽培仕様・数量・価格)を目指す、A「予約登録米(米の年間購入予約制度)」「有機栽培米、エコ・チャレンジ米(化学合成農薬や化学肥料をできる限り削減した米作り)」等の取組を強化しつつ、産地と連携した積極的な販売促進を行いグループの米取扱量の拡大を目指す、B直接契約以外の米についても全農特定契約の仕組みをいかして安定的に米を供給する、などがその主な内容である。

生産者の努力を認める仕組み

 農薬削減、環境保全型農業は、生産者の取組に対する正当な評価をなくしては実現しない。また、おいしい米作りも同様だ。熱心に米作りをする生産者、農薬削減に努力する生産者を育成し、増やしていくためには、生産者に対する正当な評価が不可欠である。

パルシステムでは独自の農薬削減プログラムを策定し、産地と一緒になって環境保全型農業を推進してきた。有機栽培やそれに準ずる農産物をトップブランド「theふーど」として位置づけるだけでなく、パルシステムが制定する一定の栽培基準を満たした農産物を「エコ・チャレンジ農産物」として差別化。その栽培の苦労等をカタログ紙面において組合員に伝達し、付加価値をつけた販売をするなど生産者の努力を積極的に認めていくことで、米、野菜、果樹各分野で着実な産地のレベルアップを果たしてきた。有機認証取得生産者も国全体の10%を超え、またエコ・チャレンジ栽培米も10000tレベルに達している。

先に述べた「予約登録米制度」も、パルシステムの特徴的な取組といえる。田植えの時期から販売先がある程度見えることは経済的な安定のみならず、「待っていてくれる組合員がいる」という米農家のモチベーション向上にもつながっている。

 なお、予約登録米で扱っている産地・銘柄米については、有機栽培米(ふーど米)か農水省ガイドラインに基づく特別栽培米(エコ・チャレンジ米)ないしはそれに準じた栽培の米であり、一般慣行米より高い価格設定となっている。しかし、予約登録米の申し込み状況は、昨今の米離れにも関わらず年々増加しており、取扱い数量計画全体の28%近いシェアとなっている。


 

総合的な有機農業をサポート

2006年12月、「有機農業推進法」が制定され、これまで農業の中では脇役的存在であった有機農業に注目が集まっている。

パルシステムでは古くから、有機農業を「農業の本来あるべき姿」として評価し、生産者と一緒になって推進してきた。国内全体のJAS有機認証取得者が約4500名といわれるなか、パルシステム産直産地におけるJAS有機認証取得者は現在、約500名を超えるまでになっている。

とはいえ、「有機農業推進法」が制定されても実態としてどのように変わったのか、実感がわかないという声を農産の現場ではしばしば耳にする。むしろ今までとあまり変わらない、このままでは絵に描いた餅になってしまうのではないかとの危機感が強いようだ。

事実、現行のJAS法のきめ細かい規制は農業の本質的な問題からかけ離れる側面がある。生産者への要求事項も非常に煩雑で、有機農業の推進にとって大きな障害となっている。有機農業をするだけでも大変なことなのに、さらに認証を取得し維持することは大変な足かせとなっている。

パルシステムでは、生産者のJAS有機認証取得にむけて、生産工程管理者の講習、管理書類の作成、内部規定の策定、圃場の管理などについて以下のような支援をしている。

@有機農業生産者の面的拡大支援

有機農業は地域で実践しないと成り立たない。農薬や化学肥料の飛散防止は有機栽培をする農家の責務ではなく、むしろ農薬使用者側の責任である。パルシステムでは、地域全体の農薬汚染を減らしていくことが農薬飛散防止の最大の近道と考え、地域で有機農業者への理解を広げるための支援をしている。

まず、消費者の立場から取引産地の地域全体に向けて有機農産物を求める声をあげ、地域農家自身の有機栽培に対する理解や参加を求め続けている。また、産直産地同士を競合させるのではなく、相互の協力関係を築くことで産地の面的つながりや仲間作り(=拡大)を支援しているのも特徴だ。

近年、パルシステムでは全国の有機生産者のネットワーク作りも積極的にサポートしてる。2007年3月には西日本の有機生産者が集まり、新たな販売、営農組織を設立することが確認され、その検討が始まった。これまで比較的小規模であった有機生産者が大同団結することで、有機JASの工程管理、作付け、販売、物流などの効率化をはかり、有機農産物流通の強固なパイプをつくることが狙いだ。また、遊休農地の活用なども射程に入れている。千葉県では、有機農家24名が集まり新たな連帯作りを進めている。

A有機農業を正当に評価する消費者

生産者を支援しても、栽培されたものを組合員が利用しなければ、産直農業の経営は成り立たない。つまり、有機農業の価値を認めるためには、有機農業そのものの理解が必要となる。そこでパルシステムではカタログ紙面上や学習会の開催により、組合員に対して有機農業に関する情報伝達を積極的に行っている。

また、組合員らがみずからが産地へ赴き、農業の現場を目で見て栽培の内容を確認する「公開確認会」も定期的に開催。これにより、有機農業はもとより農業そのものに対する理解を深め、その価値を正当に評価できる組合員が着実に増加しており、推進するためには、生産者への働きかけと消費者への働きかけの双方が必要である。

 

これからの展開

 ここ数年、生協の産直は大きな転換期にある。産直だから安全であるという産直神話は崩壊し、より確かな契約関係が求められる時代へ転換しつつある。多くの生協が使ってきた「信頼関係」「顔が見える関係」などの言葉は、安全性の担保にはなりえず、産直のイメージ作りにしかならない。むしろ、消費者に優良誤認を与えかねない曖昧な表現とも言える。

 パルシステムでは、科学的根拠に基づいて証明できる「安全・安心」な産直システムの構築を目指して転換をはかってきた。より確かな信頼関係の構築のために、農薬削減プログラムの立ち上げと、公開確認会の開催である。農薬削減も産地への要求ではなく、栽培実験、技術提供、資材開発など提案型で生産者と一緒になって成し遂げてきた。

 最近農産物は買い手市場で、「欠品は絶対にゆるさない!」「安くしないと買わない!」と産地に要求だけを押し付けるケースがある。しかしその風土こそが「食品偽装」を招く要因となっている。産地側も流通側の無理な要求は断固としてはねつけ、むしろ産地側が取引先を選んでいくことが必要だ。そのような関係づくりがこれからの農業を切り開いていく第1歩となることを多くの産地、生産者の方に訴えていきたい。

 


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